最近の映画
『ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~』 The Zookeeper's Wife
ワルシャワの動物園で300人ものユダヤ人をかくまい、命を救った夫妻の物語。実話に基づいています。ナチスの管理下に置かれ常に見張りの中にあったその動物園の敷地内で、これほど多くの人々を救うことができたのはまさに奇跡といえますが、それはアントニーナと夫ヤンの、自らの危険を顧みぬ強い意志と行動、そしてすべての命を愛する心が可能にしたものだったといえるでしょう。ナチスのポーランド侵攻、ワルシャワゲットー、ワルシャワ蜂起、動物政策など、、、さまざまな要素が詰まった映画です。
▶原作
『ユダヤ人を救った動物園ーヤンとアントニーナの物語』
(原題:The Zookeeper's Wife)
ダイアン・アッカーマン著/青木玲/亜紀書房/2009年7月
(ブログが開きます)
『否定と肯定』 Denial
「ホロコーストの大量虐殺はなかった」と言うイギリスの歴史家に、名誉棄損で訴えられたアメリカのユダヤ人教授デボラ・E・リップシュタット。本作は、2000年にロンドンで実際に起きた法廷対決がテーマです。歴史とは、そして言論の自由の定義とは何なのかを、本作品は私たち一人ひとりに問いかけています。誤った情報や歴史を軽視する言動が簡単に拡散され、ときに強い影響力をも持ってしまう現代社会において、一人でも多くの人に観てほしい作品です。
▶原作
『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』
(原題:DENIAL Holocaust History on Trial)
デボラ・E・リップシュタット著/山本やよい訳/ハーパーコリンズ・ジャパン文庫判/2017年11月
『少女ファニーと運命の旅』 Le voyage de Fanny
ナチ占領下のフランスから、子どもたちだけでスイス国境を目指したという物語。
リーダーは13歳の少女ファニー。実話に基づいています。
両親に会えない悲しみ、追ってくるナチへの恐怖、空腹と疲れ・・・
逃避行の途中で出会う大人たちは、密告者もいれば、納屋にかくまってくれる農夫もいる。
誰が敵か味方か、子どもたちには分からない。
「私たちはユダヤ人? 悪いことなら やめれば?」幼い子どもの問いに胸が詰まります。
すべての子どもたちを大切にする世界をつくるため、すべての大人におすすめの作品です。
▶関連図書
『エーディト、ここなら安全よ』キャシー・ケイサー著、石岡史子訳 (ポプラ社、2007)
ユダヤ人の子どもたちを守ったフランスの村モアサックを舞台にした実話。オーストリア生まれの少女エーディトは家族と引き離され、フランス南部の村の寄宿学校にかくまわれます。ナチスによるユダヤ人逮捕の危険が迫るたびに、村人たちはその情報を寄宿舎に届け、子どもたちはキャンプに出かけるふりをして山に隠れます。モアサックの村人たちの勇気によって、エーディトや500人を超える子どもたちの命が助けられました。
『ヒトラーへの285枚の葉書』 Alone in Berlin
政権批判のポストカードを書いて、街中で人目につくところにそっと置く・・・という抵抗を繰り返した夫妻の物語。ゲシュタポ資料を元にして1947年にすでに書かれていた小説が原作で、実話に基づいています。
監視の目を恐れる、隣人を疑う、という生活の窮屈さ、不自由さ、恐怖を考えさせられました。言葉少ない作品ですが、手に汗にぎりました。その中で、行動する夫妻の心情が変化していく様子にも心動かされました。
観た後で、作中に出てくる「18」という数字についてずっと考えていました。この数字をどう受け止めるか、人によって違うかもしれませんが、この実話が映画になって今、知ることができたことに感謝したいです。(Kokoro)
参考リンク
ドイツ抵抗記念博物館 German Resistance Memorial Museum
芸術家や知識人、キリスト教徒、労働者、青少年など、社会の様々な立場の人たちが抵抗した。多くが犠牲となったユダヤ人やロマの人々による抵抗運動も紹介されています。
『ニコラス・ウィントンと699人の子どもたち』 Nicky's Family
この人の映画がいつか日本でも公開されないかなぁ、と心待ちにしていました。Kokoroが長年交流を続けているアウシュヴィッツ生還者のジョージ・ブレイディさん(『ハンナのかばん』主人公ハンナの兄)から、ニコラス・ウィントンのことはよく聞いていました。「ぼくの両親も、ぼくと妹のハンナをニコラスに預ける話をしていたんだ」と。
1933年にドイツで政権をにぎったナチは、ユダヤ人に対する差別の政策を推し進めていきました。1938年3月、ドイツはオーストリアを併合すると、ドイツとオーストリアのユダヤ人は迫害を恐れて、国外への逃げ道を必死に探しました。同年7月、ヨーロッパにあふれだしたユダヤ難民の問題を協議するため、32ヶ国の代表がフランスのエヴィアンに集います。しかし、難民の受入を申し出た国はドミニカ共和国ただ一カ国だけでした。
1938年11月9日から10日の未明、とうとう暴動が起きます。ドイツ全土で8000以上のユダヤ人の商店やシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)が襲撃にあい、破壊されました。「帝国ポグロムの夜事件」または「クリスタルナハト事件」と呼ばれているできごとです。ナチの突撃隊による暴力だったにも関わらず、暴動の翌日に逮捕されたのは被害者であるユダヤ人でした。90数名のユダヤ人が殺され、約3万人のユダヤ人が強制収容所へ送りこまれました。
そんななか、子どもたちだけでも救おうと、ある作戦が始動します。「キンダートランスポート」、"子どもの輸送"。1938年12月から39年9月まで約1万人のユダヤ人の子どもがドイツ、オーストリア、チェコスロヴァキア(当時)からイギリスへ送られたのでした。
ニコラス・ウィントンは、プラハを拠点にして、この作戦のために奔走した人物です。ジョージの両親は一時は子ども二人をイギリスへ逃がすことも考えましたが、まだそのときは、家族が一緒にいるほうが安全だろうと考えてあきらめたそうです。
本作品は、ドキュメンタリーと再現ドラマで構成されていて、ニコラス・ウィントンのあたたかい人間味あふれる姿が伝わってきます。そして最後に、世界の子どもたちに広がる「善の連鎖」が感動的です。(Kokoro)
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』 Les Heritiers
パリ郊外の高校が舞台となった実話です。歴史教師のアンヌ先生が、「落ちこぼれ」「問題児」とレッテルを貼られた子どもたちと共にフランスの全国歴史コンクールに出場するまでを描いた作品。子どもたちの心の扉が少しずつ開かれていく過程が丁寧に描かれています。現代の貧困や多民族社会の複雑さもしっかりと重く伝わってきます。でも、だからこそ、子どもたちの表情が変わっていく様子に希望を感じます。
一緒に試写を観た高校の先生の感想より
「いろんな種類の涙が出た。サバイバーの証言にも涙したし、先生たちの格闘には悔し涙が出たし、最後はクラスが一つになった時の感動の涙だった。」
●Kokoro目線 👀
13歳でガス室に送られた少女ハンナのスーツケース(「ハンナのかばん」)がアウシュヴィッツ博物館から届いて、当時Kokoroが開いていた展示室に見学にきてくれた子どもたちの姿と重なりました。「学びの場」というのは「奇跡」が生まれるところなんだなぁ。すべての先生に観てほしいです。
│歴史メモ
ナチ占領下のフランスでは、抵抗してユダヤ人を助けた人々がいた一方で、国内のユダヤ人をアウシュビッツへ積極的に送りこんだフランス警察の協力もありました。本作品の中でも、ホロコーストの学習を進めるなかで、その事実を知った生徒の一人が怒りをあらわにして教室に飛び込んできます。
1995年、当時のフランスのシラク大統領は、ヴィシー政権下でフランスがユダヤ人迫害に加担したことを認め、「歴史の暗い時代を包み隠さないこと、それは、人間および人間の自由と尊厳を守ること」と演説をしました。
※1940年当時、フランスのユダヤ人口は約35万人。半数は、ナチを逃れてきた難民でした。
41~44年の間に、7万人を超えるユダヤ人がパリ郊外のドランシー収容所経由でアウシュビッツなどへ送られます。この中には11,400人の子どももいました。生還者はわずか2,500人でした。
│関連の図書
・『ホロコーストのフランス』 渡辺和行著 (人文書院、1998)
・『エーディト、ここなら安全よ』キャシー・ケイサー著、石岡史子訳 (ポプラ社、2007)
│参考リンク
・ショア記念館 (Mémorial de la Shoah)
パリにあるホロコーストの記念展示施設。
・レジスタンスと強制移送の全国コンクール
(Le concours national de la Résistance et de la Déportation)
映画の中で高校生たちが出場した歴史コンクール。「ナチ強制収容所システムの中の子どもと若者たち」というテーマに取り組んでいました。2015-2016年度のテーマは「芸術と文化による抵抗」だそうです。1961年に、当時の教育相による創設された歴史あるコンクールで、毎年3万人を超える生徒たちが参加しています。
『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』 Der Staat gegen Fritz Bauer
アドルフ・アイヒマンの逮捕に関わった、戦後ドイツでもっとも重要な法律家フリッツ・バウアーを描いた作品。
映画『顔のないヒトラーたち』をご覧になった方もいるのではないでしょうか。若き検察官がアウシュヴィッツ強制収容所の元親衛隊員らを裁くために奮闘する様子が描かれていましたが、彼の上司で、この1963年にドイツで開かれた「アウシュヴィッツ裁判」を指揮したのがフリッツ・バウアーです。
「孤高のヒーロー」という姿だけでなく、ヘビースモーカーで、同性愛者であったバウアーの人間像が深く掘り下げて描かれています。作中で、架空の人物としてバウアーの同性愛者の部下が登場するのですが、この時代に同性愛者がドイツ社会でどのような立場に置かれていたのか、ということが物語の重要なカギとして織り込まれているのも、とても興味深かったです。(Kokoro)
💡 「アイヒマン裁判」を描く映画『ハンナ・アーレント』と合わせて観てみるのも
おすすめです。
💡『「ホロコーストの記憶」を歩く~過去をみつめ未来に向かう旅ガイド』第1章で、ベルリンの街に点在する様々なホロコーストの記念碑を紹介していますが、そこにいたるまでにドイツ社会がどんな矛盾や葛藤、ナチ時代との連続性をもっていたのかがこの作品を通して伝わってきます。司法機構にもナチの人脈は色濃く残っていました。それを乗り越えて、今のドイツの姿があるのだと理解を深めることができると思います。
おすすめ映画リスト
『SHOAHショア』Shoah 1985年
制作フランス、監督クロード・ランズマン
元ナチ党員、生きのびたユダヤ人、収容所近隣の村人の証言による9時間半のドキュメンタリー
『さよなら子供たち』Au Revoir, Les Enfants 1987年
制作フランス、監督ルイ・マル
1944年、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人とフランス人の少年の友情が引き裂かれる。
『コルチャック先生』Korczak 1990年
制作ポーランド、西ドイツ、監督アンジェイ・ワイダ
孤児院を経営し、有名な作家でもあったコルチャックは、助命の道があったが、孤児たちと共に死へ送られる
『遥かなる帰郷』La Tregua 1996年
制作イタリア、フランス、スイス、監督フランチェスコ・ロージ
ユダヤ系イタリア人プリーモ・レーヴィがアウシュヴィッツを生き延び、故郷にたどりつくまでを描く
『耳に残るは君の歌声』The Man Who Cried 2000年
制作イギリス、フランス、監督サリー・ポッター
ロシアの片田舎で虐殺を逃れた少女が父と再会するまでの成長の物語。ロマの青年をジョニー・デップが演じている
『灰の記憶』2001年、アメリカ、監督ティム・ブレイク・ネルソン
『戦場のピアニスト』The Pianist 2002年
制作フランス、ドイツ、ポーランド、イギリス合作、監督ロマン・ポランスキー
ワルシャワ・ゲットーを生きぬいたユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験
『ヒトラー 最期の12日間』Der Untergang 2004年
制作ドイツ、オーストリア、イタリア、監督オリバー・ヒルシュビーゲル
1945年4月、ベルリンの地下壕でのアドルフ・ヒトラーの最期の日々を描く
『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』Sophie Scholl – Die Ietzten Tage 2005年
制作ドイツ、監督マルク・ローテムント
ナチスに抵抗したミュンヘン大学の学生グループ「白バラ」を描く
『ヒトラーの贋札』The Counterfeiter 2006年
制作ドイツ、オーストリア、監督シュテファン・ルツォヴィツキー
ザクセンハウゼン強制収容所で、ナチスから紙幣の贋造を強制されたユダヤ系技術者たちの苦悩を描く
『誰がため』Flammen og Citronen 2008年
制作デンマーク、チェコ、ドイツ、監督オーレ・クリスチャン・マッセン
ナチス占領下のデンマークで、対独協力者の暗殺を実行していた実在のレジスタンスの男二人のドラマ。
『ワルキューレ』Valkyrie 2008年
制作アメリカ、監督ブライアン・シンガー
ヒトラー暗殺を企てた実在の将校シュタウフェンベルクを描く。
『ザ・ウェイブ』Wave 2008年
制作ドイツ、監督デニス・ガンゼル
高校教師の実験的な授業を通して独裁制に魅了されていく生徒たち。アメリカで起きた実話が元になっている。
『黄色い星の子供たち』2010年
制作フランス、ドイツ、ハンガリー合作、監督ローズ・ボッシュ
『ハンナ・アーレント』Hannah Arendt 2012年
制作ドイツ、ルクセンブルク、フランス合作、監督マルガレーテ・フォン・トロッタ
ユダヤ系ドイツ人でアメリカに亡命した哲学者。アイヒマン裁判のレポートを出版し論争を引き起こした。
『ナチスの犬』Suskind 2012年
制作オランダ、監督ルドルフ・バン・デン・ベルグ
ユダヤ人の子どもを収容所への移送から救おうと奔走したドイツ系ユダヤ人ススキンドの実話。
『ソハの地下水道』In Darkness 2011年
制作ドイツ、ポーランド合作、監督アニエスカ・ホランド
ユダヤ人をかくまったポーランド人下水修理業者ソハの実話に基づく作品。
『やさしい本泥棒』The Book Thief 2013年
制作アメリカ、監督ブライアン・パーシバル
『顔のないヒトラーたち』Im Labyrinth des Schweigens、2014年、ドイツ、監督ジュリオ・リッチャレッリ
1963年からドイツのフランクフルトで行われた「アウシュヴィッツ裁判」を描く。
『サウルの息子』Son of Saul 2015年
制作ハンガリー、監督ネメシュ・ラースロー
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/saul/
アウシュヴィッツで「死体処理班」として働かされていた一人のユダヤ人の二日間の物語。1944年10月に実際に起きた暴動が背景となっている。
『フリーダムライターズ』The Freedom Writers Diary 2007年
制作アメリカ、監督リチャード・ラグラヴェネーズ
1994年、アメリカの公立校が舞台。『アンネの日記』を教材にして荒れたクラスを立て直した教師の実話。
『謀議』Conspiracy 2001年
制作アメリカ、イギリス、監督フランク・ピアソン
1942年1月にナチスの高官たちが集い、ユダヤ人の絶滅計画を話し合ったヴァンゼー会議を描く。
『イーダ』2013年
制作ポーランド、デンマーク、監督パベウ・パブリコフスキ
60年代初頭のポーランド。修道院で育てられた戦争孤児アンナが自らの出生の秘密を知るために旅に出る。
『黄金のアデーレ 名画の帰還』WOMAN IN GOLD 2015年
制作アメリカ、イギリス、監督サイモン・カーティス
公式サイト http://golden.gaga.ne.jp/
ナチスに奪われたクリムトの名画を取り戻すため、オーストリア政府を相手に訴訟を起こした女性の実話。
『二つの名前を持つ少年』Lauf Junge lauf 2013年
制作ドイツ、フランス
公式サイト http://www.futatsunonamae.com/
原作は、自身も収容所から生きのびたウーリー・オルレブの『走れ、走って逃げろ』(岩波書店)。
『愛をよむひと』The Reader 2008年、
制作アメリカ、ドイツ、監督スティーブン・ダルドリー