【おすすめ映画】12/22公開『家へ帰ろう』
12月22日公開予定の映画『家へ帰ろう』を、先日一足お先に観させていただきました。
ホロコーストを生還し、戦後アルゼンチンに移住したアブラハムおじいさんが、
戦後一度も足を踏み入れなかったポーランドへと旅するお話。
"ホロコースト生存者の戦後"に焦点を当てた新しい視点の作品です。
今回、事前に予告もあらすじも見ずに映画を見たので、この頑固なおじいさんが一体何をしたいのか、始めはまったくわかりませんでした。
おじいさんの憎らしいほど愛らしい行動の一つひとつに思わず笑ってしまう場面もありますが、次第に、彼が人生最後の一大決心をしたのだということに気がつきます。
かたくなに「ポーランド」という言葉を口にせず、ドイツの地を踏まない方法を考える、とにかく頑固なおじいさん。
それでもヨーロッパの旅は、過去の辛い記憶を呼び起こしおじいさんを苦しめます。
ホロコーストを生き延びた人々が戦後何十年も過去について語らない、語れない、という例が多いということを知ってはいましたが、
それがなぜなのかということが、このおじいさんの一つひとつの動作、出会う人々との会話の中から、感覚的に伝わってきました。
この映画のキーポイントは、あの時代を生き抜いた人と戦後に生まれた世代との関わりだと思います。
おじいさんの腕に刻まれた囚人番号の入れ墨をみて、出会う人々は、この人はきっととても大事な理由があってポーランドに行くのだ、ということを悟ります。
特に、途中で出会ったドイツ人女性との出会いは、あれだけかたくなにドイツそのものを拒絶していたおじいさんの心に少しずつ変化を引き起こしていきます。
ナチスとホロコーストの歴史においてドイツはまちがいなく加害者ですが、戦後に生まれた世代にその罪を償う責任はない、ということは現在、社会の共通認識になっています。
しかし実際に過酷な経験を味わった犠牲者の前に加害者の子孫がいたとき、彼らの感情はそう簡単にこのことを受け入れられないこともあります。
おじいさんとこのドイツ人女性の関わりから、そういう理屈では表せない「本質」の部分が見えてきました。
ホロコーストを生き抜いた人々の物語には、多くの助けた人々の存在があります。
そして戦後、助けられた人と助けた人が再会した例もまたたくさんあるのです。
Kokoroで何度も体験を語ってくださっている、日本にお住まいのホロコースト生存者ヤーノシュ・ツェグレディさん。
ヤーノシュさんのお母さんは、収容所へ数百キロ歩かされ、ろくに食料も与えられずに疲れ果てていたとき、途中で寝床の代わりに入れられた豚小屋で、その持ち主の女性がひっそり食べ物を分け与えてくれました。それが彼女の命を救うことになり、戦後お母さんはこの女性と再会し、連絡を取り合っていたそうです。
こうした再会の物語は、ホロコーストという悲劇の歴史の中にも希望があったということを私たちに伝えてくれます。
そしてその希望は、決して権力を持つ者の偉大な功績だけではなく、むしろ一人ひとりの小さな行いから生まれてくるものだということにも気づかせてくれます。
そうした意味でも、「本質」への気づきを与えてくれる良い作品でした。
最後は涙なしには観られません。
《映画情報》
・制作:スペイン、アルゼンチン、2017年 ・監督・脚本:パプロ・ソラロス ・上映時間:93分
〜あらすじ〜
ブエノスアイレスに住む88歳の仕立屋アブラハムは、
自分を施設に入れようとしている家族から逃れ、 スペイン・フランスを経てポーランドへと向かうための旅に出る。 その目的は、第2次大戦中のホロコーストから逃れ、 自分の命を救ってくれた親友に自分が仕立てた「最後のスーツ」を渡すこと。
▶公式ホームページ http://uchi-kaero.ayapro.ne.jp/